最終更新日 2024年8月10日
中小企業白書によると、中小企業が付加価値を向上しながら成長するための方法として、ブランドへの投資が挙げられています。
しかしながら、ブランド構築に取り組んでいる中小企業は36.8%に留まるとされています。
一般に、ブランドという言葉は「海外の老舗アパレル企業の高額商品」や「大企業の巨額な予算を用いた広告戦略」を想起させますが、決してそれだけがブランド確立のための施策ではありません。
中小企業でも可能なブランド確立方法は存在します。
この記事では、中小企業におけるブランディングの必要性と具体的な実践手法に焦点をあてて、中小企業診断士が解説します。
目次
ブランドとは何か?
消費者の想像する価値
自社や自社製品のブランディングを考えるためには、そもそもブランドとは何なのか正しく理解する必要があります。
結論から申し上げると、ブランドとは「消費者が想像する価値」のことです。
ブランドの定義については、様々意見がありますが、企業としてブランディングを考える上では当事務所として上述の定義が適切であると考えています。
一般に、ブランドというと製品名や社名、ロゴ、商標を想像する方が多いですが、価値を連想するきっかけとなるものに過ぎず、それ自体がブランドではありません。
その製品名を聞いて、消費者が品質の高さを想起しなければ、実際には品質の高い製品を製造していても、高品質な製品を作る会社というブランドは確立しているとは言えません。
一貫性のある印象
例えば、自社をカジュアルなブランドとして展開したい場合を考えてみましょう。
提供製品が気軽に買える価格帯であっても、販売する従業員の対応が高級レストランのような仰々しい対応であれば、お客様は決してカジュアルブランドと自社を認識しません。
ブランドとは「一貫性のある印象付け」によって、初めて成り立つものであると言えます。
中小企業がブランディングを行うべき理由
購入の意思決定を助ける
ブランドの果たす役割として、消費者の情報処理を簡略化する機能があります。
多くの消費者は日常の購買行動の中で、膨大な選択肢の中から知っているブランドを無意識に選び出し、連想される効果などを基準として購買行動を行っています。
これはBtoBを主とする事業者においても同様であり、「あの業者に頼んだら短い納期で納品してくれる」といった、ブランド連想により取引先は決定されます。
つまり業種や事業規模の大小は関係なく、モノやサービスを提供する全ての事業者おいてブランドは売上に直結すると考えるべきでしょう。
利益率を上げる効果がある
中小企業における、ブランド構築取り組み有無別の取引価格への寄与
出典:東京商工リサーチ『中小企業の経営経営理念・経営戦略に関するアンケート』より
当事務所にてグラフ加工
上のアンケート結果によると、ブランドの構築・維持に取り組む中小企業の半数以上が、ブランド価値を取引価格へ付加すること(つまりブランド構築に起因した値上げ)に成功しています。
このことから利益率の改善の効果を期待できると言えます。
中堅中小企業のとるべき戦略として、他社との差別化による独自性を利益の源泉とすることが挙げられます。
しかし、差別化する対象は必ずしもサービスや商品でなくともよく、ブランドの差別化によっても収益改善効果は期待できるでしょう。
ブランド構築の具体的手法
多くの中小企業には、ブランド構築のために広告費などへ多額の投資をする予算はなかなか用意出来ないかと思います。
そこで、お金をかけずにブランド構築を行う具体的手法に焦点をあてて解説します。
ブランドの目標を定める
ブランドとして将来こうなりたいという願いをブランドビジョンと呼びますが、これを定めることで、その後の施策は自ずと定まってきます。
例えば、自社の名前を聞いてアルミ加工の専門家としてのイメージを想起してほしい場合と、どんな金属の加工もこなす万能な事業者としてのイメージを想起して欲しい場合とでは、実行すべき施策が大きく変わってきます。
ターゲットとする顧客属性を定める
万人に好まれるブランドを確立することは多くの場合困難です。そのため、どんな顧客に好まれるブランドとなりたいかを定める必要があります。
ブランドの目標と整合するターゲットが定めれば、そのような顧客に好まれるような施策を逆算して打つといったように、具体的なブランド確立に向けた行動方針を定めやすくなります。
推進体制を構築する
残念ながらブランドの確立は、一朝一夕にできることではありません。
ブランドの目指す方向性と合致した事業推進を日々行なっているかを管理する上位役職者と、ブランド確立を信じて我慢強くアピールする営業の体制を整える必要があります。
体制を整えずにブランド構築を推進すると、営業の際に伝えるアピールポイントが都度ぶれてしまい、意図したブランドの価値観を顧客に理解してもらえないといった事態に陥りやすくなります。
一貫性のある意思決定を継続する
長期的に顧客へブランドを印象づけるためには、どんな時にもブランドの目指す方向性と合致した意思決定をする必要があります。
そして、時には目先の売上を捨てて、ブランドの方向性に合った案件のみに集中することが必要となります。
例えば、難易度の高いアルミ加工の専門家としてのブランド構築により案件単価向上を目指している場合を考えてみましょう。
高度な溶接技術が必要とされる案件を、数多く受注するため、自社のトップ技術者をそのような案件に優先的に当てがうことなどが考えられます。
そして短期的な売上に飛び付かず、長期的なリターンを重視し
「どこの加工業者でもできるような案件は受けない」といった選択や、
「別の加工業者から利益を中抜きされるような、多重下請け案件は断る」
などの意思決定を下す必要があります。
厳しいように感じられますが、実際に上述のような意思決定を貫きブランド構築に成功した企業は存在します。
ある中堅ソフトウェア開発会社は、難易度の高いプログラミングの専門家集団というブランド構築方針のもとに、下請け開発会社にはならない方針のもと事業運営をしています。
前述の方針に基づき、大手SIerからの下請け案件は断り、直接顧客から受注する方針を徹底して貫くことで、常に、信じ難い程の高単価で開発案件を受注し続けています。
そしてブランディングに成功したことにより、技術力の高いエンジニアの入社希望者が数多く集まるという、良好なサイクルを構築しています。
まとめ
ブランディングは中小企業も取り組むべきものであるという認識が徐々に浸透してきており、ついに中小企業白書で大きく取り上げられるにいたりました。
今後、ブランド構築に取り組む中小企業が増加することが予想されます。
数年単位で長期的に取り組む必要がある施策だからこそ、周りの中小企業がブランドを構築をしてから、焦って自社も着手するのでは周回遅れとなってしまい、取り返しがつかない結果になりかねません。
本稿は数あるブランディング手法のうちの一つにすぎませんが、ぜひ参考にして、できることから始めていただけたら幸いです。
当事務所では中堅中小企業に特化して、ブランディングやマーケティングのご支援を行っています。
当事務所は、新卒間もないコンサルタントなど、経験の浅い人間を担当させることは一切ございません。
中小企業診断士や経営企画/マーケティングの経験豊富な人間が必ず担当しますので、安心してご相談ください。