最終更新日 2024年8月10日
中小企業診断士の川元です。
「ブランディングに取り組んでみたいが、何をすれば良いのかわからない…」
このようなお悩み抱えておりませんでしょうか?
中小企業におけるブランディングの重要性が、2022年の中小企業白書において示されて以後、ブランディングに取り組み始めている企業が少しづつ増えてきているように思います。
今やブランディングはどのような業種・企業規模であっても必要不可欠な取り組みとなりつつあります。
競合企業に取り残されないよう、ぜひ本記事をブランディング施策策定の参考にしてみてください。ブランディングの必要性と具体的な実践手法に焦点をあてて、中小企業診断士が解説します。
ブランディングに取組みたい中小・ベンチャー企業の経営層の方
ブランディングにそもそも取り組むべきか判断がつない経営層の方
目次
ブランディングとは?

ブランドの定義
ブランドとは何なのか?この答えは、ネットで調べても様々な書籍を読んでも、書かれていることは様々ですが概ね共通している内容としては「ブランドとは顧客が知覚している価値である」という点です。
実際、ある製品の性能が圧倒的に優れていたとしても、ユーザーに性能が優れていると知覚されていなければ選ばれません。
ビジネスをする上では、ブランドについて上述の認識で差し支えないでしょう。
ブランディングの定義
ブランディングとは一体何なのか?
ブランドの定義を上述の内容とすると、ブランディングとは「顧客に商品,サービス,企業等の価値を認識してもらうことを促進する活動」と言えます。
覚えやすいロゴの作成やブランドメッセージの発信、洒落た広告の発信などを思い浮かべられる方も多いでしょうが、それらはブランディングの一つの施策にすぎません。
ブランディングとマーケティングの違い
ブランディングとマーケティングは非常に相互に関係する概念であり、広い意味ではマーケティングはブランディングの中の一つの要素と言えます。
違いを整理した上で自身の行なっていることはブランディングなのか?マーケティングなのか?を把握することが、社内での認識齟齬を生まないためにも大切です。大きくは目的が違う活動であり、具体的には以下のような整理となります。
ブランディング
商品,サービス,企業等の価値認識を顧客心理の中に形成することが目的
マーケティング
顧客に商品,サービス,企業等の価値を効果的に伝えることが目的
インナーブランディングとアウターブランディングの違い

ブランディングには大きく分けると、インナーブランディングとアウターブランディングの2種類あります。整理としては以下のような形になります。
インナーブランディング | アウターブランディング | |
---|---|---|
内容 | 自社の従業員に向けたブランディング | 顧客など社外に向けたブランディング |
目的 | ・社員のブランド理解度向上 ・社員の士気向上 ・ブランディングに即したサービス提供 | ・顧客のブランド認知向上 ・競合との差別化 ・顧客からの信用創出 ・獲得収益の拡大 |
インナーブランディングとアウターブランディングは表裏一体の関係にあります。
インナーブランディングが出来ていないと社員が顧客に対してサービス提供する際の、振る舞いや話す内容がブランドコンセプトとかけ離れ、どれだけアウターブランディングを頑張っても、顧客心理の中に価値認識が形成されません。
大袈裟な例にはなりますが、ラグジュアリーな製品ブランドを確立したいとして、アウターブランディングの施策を頑張り、大御所芸能人を起用した上品なCMを打ったとします。
しかし店舗で接客する社員が友人と話すかのようなフランクな立ち振る舞いで、服装も着崩しているようあれば、その顧客はラグジュアリーブランドとは認識しないでしょう。
ブランディングのメリット

ブランディングを行うことで、具体的にどのようなメリットがあるのか、まずは理解を整理していきましょう。
好感度・信用の創出
顧客は見慣れたものを好み、馴染みのある商品にはあらゆる面でプラスの特徴を見出そうとするものです。
馴染みのある商品を信用し、プラスの特徴を見出そうとする人間の性質は、ブランディングを行うことに大きなメリットを生み出しています。
実際に私も最近、「スポーツをする時用の、バックパックが欲しい」と思い、名前を聞いたことのあるメーカーをいくつか調べていました。聞き馴染みがあるメーカーだからこそ、信用し更に調べるというアクションに繋がったといえます。
最初は「サイズさえ丁度よければ何でも良い」と考えていましたが、調べているうちに各メーカーの特長や、そのメーカーの歴史などまで深掘り始めており、結果的にこれらの情報は私の頭に叩き込まれていました。
皆様もこのような経験ありませんでしょうか?
まさにこれがブランディングを行い認知されることで生み出される信用や好印象というメリットです。
連想による選択
ブランドが確立されると、顧客心理において連想が生まれます。そしてその連想をベースとして、購買を検討するいくつかの選択肢の内の一つに入ることができるようになります。
実際多く購買行動において、顧客の中には想起集合と呼ばれる2,3個程度の選択肢になるブランドが存在し、その中から購買するものを選ぶという現象が起きていると言われています。
例えば車を選ぶ時に「品質の良さ」を最優先で選ぼうと考える人にとってはトヨタやホンダ等のブランドが連想されたり、「ラグジュアリーさ」を最優先で大事にしたいと考える人にとってはレクサスやベンツ等のブランドが真っ先に連想されるのではないでしょうか?
そして、それらの連想されたブランドの中で、どの車種を選ぶかを深く調べて検討されるという工程をたどるため、連想されるブランドに入ることは大きなメリットと言えます。
継続購買の創出
ブランドが確立された後、顧客がそのブランドに対し抱く愛着や高い信頼をブランドロイヤリティと呼びます。
ブランドロイヤルティが構築された状態まで持っていくことができれば、顧客が同一カテゴリの製品を購入する時に、急に大きな不満点が出たりや他に突出した魅力的な選択肢が出てこない限り、皆様の製品ブランドを継続的に選んでもらうことができるでしょう。
結果として、1人や1社あたりの顧客から得られる売り上げの総和(ライフタイムバリュー・LTVなどと呼びます)が上がり、皆様の製品の長期的な売り上げにつながります。
実際私も休日に履くスニーカーは、愛着を持っている1つのブランドの製品をかれこれ10年以上履いています。靴底がすり減り4回ほど買い替えていますが、そのブランド以外でスニーカーを買おうとは全く考えていません。
ブランディングの具体的手法

実際にブランディングを推進するにあたって、どのように進めるべきか?
当事務所としてお勧めする進め方を、一つづつ手順を追って解説していきます。
ブランディング戦略策定
ブランディング戦略なく、とりあえず広告を打つ・ロゴやデザインを作るといった施策を先行させると、多くの場合ブランディングは失敗します。まずは以下の3つ問いに対する答えを、社内で決めていきましょう。
この3つの問いはバラバラに考えるものではなく、一緒に考え整合をとるようにしましょう。
以下3つの問いに対する答えを考える前提情報として、PEST分析と3C分析により外部環境と内部環境の分析を行なっておくと、より円滑に戦略策定ができるでしょう。
PEST分析:「政治」「経済」「社会」「技術」の観点から外部環境の時流を整理し、自社に対し現在または将来においてどのような影響があるかを理解するための分析です。
3C分析:Customer(顧客のニーズ)、Competitor(競合の強み弱み)、 Company(自社の強み弱み)から市場環境を読み解く分析手法です。
どういうブランドになりたいのか?
自社のブランドがこうあって欲しいと強く願うイメージを言語化したものを「ブランドビジョン」と呼び、ブランドビジョンを定めることが必要となります。
最初は経営者としての思いや、そのブランドを管理する営業部長やマーケティング部長の思いで定めてOKです。
一言ではまとまらない場合がほとんどだと思うので、まずは制限なく書き出し、本当に大事にしたいことを絞り込んでいくと良いでしょう。
どういう人に選ばれるブランドになりたいか?
全ての人々に好まれることは大変難しく、ブランドターゲットは一定の選択と集中を行う必要があります。例えばラグジュアリー路線を選ぶなら、資金力に乏しい顧客はどうしても対象から外さざるを得ません。
競合とどのような差別化を図るか
主に3C分析の結果を前提として、競合他社とどのようなポジショニングの違いを生み出すのかを決める必要があります。そして、そのためにどのようなブランドであるべきかを検討する必要があります。
どれも一朝一夕に答えが出るものではありませんが、擦り切れるくらい考えて、自社としての答えを導き出しましょう。
組織内での共有
上述のブランド戦略は、経営幹部だけに浸透していれば良いわけではなく、現場の社員にまで浸透している必要があります。
顧客接点となる社員が自社のブランド戦略を理解していなければ、顧客に対しブランディングに反した振る舞いをしてしまいかねません。
製造部門の社員に対しても同様で、製造部門の社員がブランディングを理解していれば、製品企画の方向性や製品のクオリティーも自社のブランド戦略に沿ったものになります。
このようにインナーブランディングは比較的初期から必要になるため、社内教育や経営者・経営幹部がブランディング戦略を直接社員に語り、ブランディングに反する行動を許容しない姿勢を示すことが重要です。
体制の確定
ブランディングは年単位で行う長期施策であり、始めたからといってすぐに効果がでるものではありません。しかし、構築が難しい反面、ブランド構築による収益効果は非常に大きくなることが見込まれます。
このような、性質をしっかりと理解した経営幹部が責任者となり、長い目で管理していくことがブランディングにおいて非常に重要であるといえます。
短期的な目標に追われている現場社員に丸投げしてしまうと、すぐに変化が現れないブランディングは現場社員の中で優先度が下がり、結果として忘れ去られてしまうことになります。
中小企業であれば経営者が、中堅企業であれば経営者もしくはそれに近しいマーケティング責任者がブランディングの総責任者を担うことが望ましいです。
責任者を取り決め、ブランディング戦略に沿った意思決定が常に行われているか、定期的に振り返るようにしましょう。
顧客接点の整理とブランディング施策の実施
現在の自社が顧客と接する全てのタッチポイント(営業・WEBサイト・広告・SNS・店舗etc)において、ブランディングに沿った印象を顧客に与える必要があります。
まずは、自社が顧客と接するポイントはどこなのか(直接・間接問わず)に洗い出しましょう。
その上で全てのタッチポイントにおいて、どのような振る舞いや内容を用意すれば、ブランディング戦略に沿った印象付けを顧客に対してできるか考え、施策に落とし込んでいきましょう。
検証作業
ブランディングは長期的な施策であるため、開始してから一定期間が経つとだんだんとブレが生じてきます。
ブレを補正するためにも、定期的に全ての顧客接点において意識されているブランディングの一貫性が保たれているか、振り返る必要があります。
また効果の検証を行うことも大切であり、顧客アンケート等により、自社ブランドが顧客からどのように見えているのかを客観的にデータ収集することで、今後の施策検討の前提情報とすると良いかと考えます。
近年、口コミを見ることができるサイトも増えてきているので、それらを上手に活用すると客観的なデータもスムーズに取得できます。
振り返りは、ブランディング推進体制の責任者が旗振り役となり、定期的に現場社員などとのコミュニケーションの場を作り、現状と理想の差異を明らかにして補正するための取り組みを考えていくと良いでしょう。
ブランド維持の手法

ブランド維持の取り組みは、検証作業の一環で行うこととなります。ブランド維持を阻害する要因として大きなものとして以下の二点が挙げられます。
- 一貫性のない顧客接点の存在
- 時流を汲み取れなかったことによる陳腐化
この二点は相反する要素のようにも見受けられることと思います。ここにブランディングの難しさが存在します。ブランディングは、核となる価値観を大切にしつつ、良いバランスで時流を汲み取り核となる価値観を毀損しない範囲で変化を続けることが必要になります。
かつては憧れのブランドだったが、今そのブランドは買わないなというブランドは皆様も思い浮かぶのではないでしょうか?まさに時流を汲み取った変化をうまくできなかったからこそ、それらのブランドは陳腐化していったと言えます。
そのためブランド維持に向けては、検証作業の中で一貫性を確保するため、以下のような取り組みが必要です。
- 全ての顧客接点において、一貫性のある取り組みができているかの確認
- ブランドにふさわしくない行為や取り組みの中止・変更
- ブランディングの定期的な社内教育/発信
そして並行して、時流を汲み取るべく以下のような取り組みも考えていきましょう。
- 競合他社の動向分析
- 顧客の購買行動に変化が起きている、もしくは起きる可能性がないか分析
- 外部環境の変化を見据えたブランド変更点の確認と、変更した際にブランド価値そのものが崩れないか検討
現場社員やアンケート等を通じた顧客の嗜好変化についての情報と、競合の発信内容や商品ライン、店舗などを地道に調査して汲み取れる情報を前提とした分析が重要となります。
ブランディングの成功事例

中堅中小企業のブランディング成功事例として、個社名の明示は避けますが、以下のようなブランディングに成功して収益を上げている企業が存在するのでご紹介します。
「技術力の高いエンジニア会社」としてのブランドを確立すべく、技術レベルの高いエンジニア社員による技術情報ブログの発信や、プログラミングコンテストへの参加/上位入選を繰り返し、技術力の高さを対外アピール。
初級エンジニアでもできる低人月単価案件の受注を断り、受託する案件のレベルと単価を選別して受注し、ブランドを確立。結果として高単価案件を多数受託。
商店街の中にあるメガネ店として、「顧客にあった、半オーダーメイドのメガネの丁寧な提案」を行うブランドを確立。
お店として提供するサービスの細やかな情報発信や、若い方のメガネも合わせ、デザイン性にも優れた写真等を発信。街の商店街にあるメガネ店でありながら、商店街を日常使いする顧客層以外にも、遠方からも若年層も含めてメガネを作りに来店する状態を確立。
まとめ
ブランディングは時間のかかる施策であり、多様なサービスで満ち溢れている現代において必要不可欠な企業施策となってきています。
時間がかかるからこそ、必要性を感じて調査を開始されている今すぐにでも始める必要があります。切羽詰まっていない為後回しにしていると、ブランディングに取り組み始めている競合に市場を取られ、気付いた頃には時既に遅しという事態になりかねません。
当事務所は中小企業診断士によるブランディング支援を提供しており、必要に応じて企業戦略の策定のような上流工程から、実際の施策実行までトータルで中堅中小企業の経営がうまくいくようサポートをしております。
お悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。